高血圧について

高血圧治療の目的

高血圧を治療する目的は、高血圧による体の障害(合併症)を予防することであり、特に高血圧による死亡(脳卒中や心筋梗塞などによる死亡)を防ぐことです。海外で行われた研究をまとめると、約50000人の対象者を二つに分け、片方のグループに血圧を下げる薬を飲んでいただき、残りのグループには薬を投与しなかった場合、薬で血圧が6~7mmHg低下すると4~5年間の脳卒中による死亡を40%減少させることができ、心筋梗塞による死亡を16%減少させることができたとのことです。また、癌や自殺を含めてあらゆる原因の死亡を合計しても、薬を服用していたグループでは死亡者数が13%減少したとのことです。このように、薬で少し血圧を下げることにより、死にいたる合併症を防ぐことができることが証明されています。

初診時の治療計画

上記の血圧値や、リスクの程度により、直ちに血圧を下げる飲み薬を服用していただく場合もあれば、3~6ヶ月待って、140/90以下に下がらない場合初めて服薬を開始する場合もあります。いずれにしても140/90以上の方は薬を飲む必要があるとされています。(60歳以下の方、および糖尿病患者)

血圧の目標値

60歳以下の方や糖尿病を有している方は130/85未満にする必要があります。60歳以上の方では、年齢に応じ、最大血圧は140~160以下にしますが、最小血圧はどの年齢の高齢者でも90未満にする必要があります。

生活習慣の修正

食塩制限、適正体重の維持、アルコールの制限、運動療法、禁煙などが挙げられています。

1)食塩制限

加工食品の摂取量が増加した結果、昭和62年には11.7グラムまで低下していた日本人の平均1日食塩摂取量が再び13グラム程度にまで増加しています。高血圧の方は1日の摂取量を7グラム以下にする必要があります。塩分摂取を6グラムにまで減らすと、最大血圧が6、最小血圧が4mmHg低下することが証明されています。なお、味覚の形成過程にある子供さんやお孫さんに薄味を覚えさせるとよいでしょう。

2)適正体重の維持

近年日本人の体重は増加の一途をたどっており、特に中年以降の男性では過去40年の間にBMIがおよそ1.7(体重にして5kg)増加しました。体重を4~5kg落とすと血圧が明らかに降下することが証明されています。

3)アルコール制限

アルコールは血圧を上げ、脳卒中を増やします。男性では日本酒換算で1合まで女性ではこの2/3程度までにおさえてください。

4)その他の食品

脂肪やコレステロールのとりすぎにならないように注意してください。また、カリウムは降圧効果があり、欠乏しないようにしてください。97年に発表されたアメリカの研究では、飽和脂肪酸やコレステロールを控え、果物や野菜を多く採ると、11~12/5~6mmHg血圧が下がるとのことです。

5)運動

毎日30~45分の早歩きをすると、10週間後には平均して 収縮期が11、拡張期が6mmHg下がることが示されています。なお、運動療法をはじめる前にはメディカルチェックを受けてください。

6)その他

寒冷は血圧を上げるので、トイレや浴室なども暖房してください。冷水浴やサウナは避けてください。

 

高齢者の高血圧

わが国の統計では、65歳以上の高齢者ではその約60%が高血圧であるといわれています。加齢とともに大動脈が硬くなり、収縮期血圧(最大血圧)が上昇します。また、高齢者では気づかないうちに軽度の脳梗塞を起こしていることも少なくなく、このような場合、あまり血圧を下げすぎると脳血流が低下しやすくなると考えられています。したがって、高齢者では血圧の治療目標値を別 個に設定しました。それによると、60歳代の方では140/90以下、70歳代の方では150~160以下/90以下、80歳代の方では160~170/90以下が目標とされています。

糖尿病を合併する高血圧

糖尿病の患者さんでは、糖尿病でない人に比べて高血圧の頻度は2倍と高くなっていて、特に2型糖尿病と高血圧は密接な関連があると考えられています。糖尿病による腎臓障害、網膜症や動脈硬化は血圧が高いとどんどん進行してしまいます。このため、糖尿病患者では特に血圧を厳重に下げる必要があります。血圧の目標は130/85未満ですが、腎臓障害があり尿に蛋白がでる症例では125/75未満にしたほうがよいとされています。血圧が130/85以上の場合には生活習慣の改善で様子を見、3~6ヵ月後に目標に到達しなければ、降圧薬をはじめます。また、140/90以上の場合には生活習慣の改善と同時に初めから降圧薬を開始します。

降圧薬

生活習慣の改善だけで目標の血圧まで低下しない場合には、前にも書いたように、降圧薬を服用することで命にかかわる合併症を減らすことができます。通 常の場合、血圧は徐々に低下させ1~6ヶ月程度かけて目標値にまで下げるようにします。ACE(アンジオテンシン変換酵素)阻害薬や長時間作用型のCa(カルシウム)拮抗薬、A・(アンジオテンシン・)拮抗薬、利尿薬、β遮断薬と呼ばれる自律神経調整薬などがまず初めに処方されます。このうち、ACE阻害薬は心肥大防止作用、心不全防止作用、腎障害防止作用、血糖改善作用などを持ち好ましい薬ですが、副作用として20~30%の方で咳がでます。A・拮抗薬もACE阻害薬と同様の作用があると考えられていますが、咳の副作用はありません。長時間作用型(1日1~2回服用)のCa拮抗薬は確実な降圧作用を有し、心臓の冠状動脈を広げる作用もあるため狭心症の患者さんなどによく使用されます。利尿薬はむくみがある場合や高齢者に使用します。尿酸や血糖、中性脂肪、コレステロールの上昇などの副作用が出ないように少量 だけ使用されます。β遮断薬は自律神経(交感神経)の働きすぎを抑える薬で、狭心症の患者さんや心拍数が多すぎる患者などに使用されます。これらの薬で目標の血圧値に達しない場合には、薬を増量 したり、他の種類の薬を併用したりします。

血圧の正しい測り方

多くの人は病院で測ってもらった数値が自分の正しい血圧と考えていますが、それは間違いで、正しい状態で何度も測った数値の平均値が、正しい血圧です。血圧の日内変動はかなり大きく、基本的に睡眠中は低く、活動している間は高くなります。これとは別 に、医療機関で測定すると一時的に血圧が高くなる「白衣高血圧」もあります。東京都老人医療センターで四十七人の高齢者を調べた結果、診察室に入っただけで、数値が17ぐらい上がることが分かりました。 家で測ると正常範囲なのに、病院で測ると「高血圧」と判断され、降圧薬を投与されることも。白衣高血圧は老人に多く見られるほか、四十代や五十代の女性にもしばしば見られます。また血圧の数値が気になって、日に何度も測って不安に駆られている人を「血圧不安症」といいます。血圧は変動しやすく、しかも瞬間ごとに目まぐるしく変動するため、できる限り正しい数値をキャッチするようにしなければなりません。家庭で測定する際の主なポイントは、次の三点です。・食事前の安静時で、起床後一時間以上たってから。・血圧が安定するまでは、毎日測る。慣れたら週に二~三回。・いすに座るか、寝た姿勢で。入浴後や食事後、運動後は避けます。こうして得られた数値のもっとも低いものが、自分の正しい血圧です。数値に一喜一憂するのではなく、簡単なグラフに記入し、健診などの機会に医師に見せるのがベストです。(後略)(保健同人社「暮らしと健康」桑島巌・東京都老人医療セン夕-循環器部長の寄稿から)(参考文献:平成11年3月26日 中日新聞)さて、いろいろな角度からの情報をご紹介しましたが、薬の使い方にも様々な意見があります。お得意様の健康アドバイスには何をお勧めでしょうか。