自分の身体を知る

データ・機能

「体内で最も神秘的な器官」、「精神の座」といった表現をされることがある 脳。

「灰色の脳細胞」を駆使して難事件を解決する探偵がいたり、コンピュータを「電脳」といったり──、なるほど脳という器官はおよそ高等な働きをするも のと捉えられています。私たちは毎日頭を使ってものを考え、行動しています。では翻って、私たちはその頭の中にある脳についてどれだけのことがわかってい るでしょうか。脳の研究は多岐に渡り、現時点で未解明の部分も多いのですが、生命活動をつかさどる器官であるという観点からも、今回は取り上げてみたいと 思います。

また、脳に関する疾患についてはこちらで紹介していますので、併せてご覧ください。

脳の参考データ

大きさ (大脳)長径約16~18cm、短径約12~14cm
重さ (大脳)
男性‥‥約1,350g
女性‥‥約1,250g
(小脳)
男性‥‥約135g
女性‥‥約122g
大脳皮質の
神経細胞の数
約140億個(チンパンジーで約80億、アカゲザルで約50億)

位置

右図参照。

脳の構造

大脳および小脳とそれらにつつまれた脳幹から構成されています。

大脳

左右2つの半球に分かれており、厚さ 2~5mmの薄さの大脳皮質(灰白質、かいはくしつ)が、内部の髄質(白質)をおおっています。皮質の外側を硬膜、クモ膜、軟膜の薄い3枚の膜が包んでい ます。大脳皮質はニューロン(神経細胞)の集まりでピンクがかった灰白色をし、うねうねとした凹凸があります。髄質はニューロンから出る神経繊維の集まり ですが、この髄質のなかにニューロンの集塊である大脳基底核が存在します。
また、大脳皮質は, 系統発生的に新しい「新皮質」と古皮質・旧皮質に分けられる。人間や霊長類においては古皮質・旧皮質は大きく発達した新皮質によって覆われており、表面か らは見られません。新皮質は高次の知能活動(認知や思考、判断など)を営み、古皮質・旧皮質は大脳核と共に大脳辺縁系という機能単位を形成し、本能的活 動、情動、記憶などの中枢となっています。

脳幹

大脳半球と脊髄を結ぶ部分で、間脳、中脳、橋、延髄と分けられ ます。間脳から伸びた茎の先に、さまざまなホルモンを秩序正しく出す脳下垂体がぶら下がる格好になっています。機能としては、脳幹全体として呼吸、心臓活 動、体温調節など、基本的な生命現象の中枢となっています。

小脳

橋と延髄の背にのり、大脳半球の側頭葉にほとんどおおわれています。からだの平衡を保つ中枢で、また、皮膚や筋肉の感覚器からの信号を受けて、筋肉群の協同運動の調節などを行っています。

脳の働き

大脳の働きは場所によって異なります。19世紀前半までは大脳皮質は場所によって機能が違っていないとする見方が主流でしたが、フランスの外科医ブローカによって脳は場所によって機能が異なる(機能局在)ことが証明されました。

失語症の研究をしていたブローカは1861年、大脳皮質に言葉を話す機能を支配する場所があることを発見しました。この場所がそこなわれると、言葉を話 すことができなくなるというものです。そうした経緯から、大脳の機能ごとの部位には発見した学者の名前が冠されているところもあります。

大脳皮質の機能地図(下図参照)

人間の大脳皮質には前頭葉・頭頂葉・側頭葉・後頭葉の四つの部分に大きく分けられる。そのはたらきと構造から、四つの部分をさらに小さな部分(領野)に分 けることができます。(この区分は研究者によって異なることがあります)しかし、現在も未だ不明の部分も多く、したがって図には現在、一般的に知られてい る区分とその働きを示しています。

人間の脳が他の生物と大きく異なるのは、こういった機能の分化によってそれぞれの情報を統合し、総合的判断を下すことができるようになった点です。そうして得た「知性」を用いて環境に順応し、子孫を残したことで繁栄することができたのです。

ニューロン(神経細胞)について

1930年代以降、ニューロンや神経線維の仕組みや、その薬理作用の解明がおこなわれてきました。そこで役に 立ったのがイカの神経繊維で、普通の太さ(0.1から20ミクロン)に比べて極端に太い(約1ミリ)ものでした。そうして明らかになったのは、神経が電気 を使った情報伝達をしているというものでした。現在では「個々のニューロンでは電気的なパルスを使って伝達され、ニューロン間を接合するシナプスでは伝達 物質(アドレナリンやドーパミンといった化学物質)によって情報が伝達される仕組」という認識に至っています。

また、このような仕組のため、ニューロン間での情報伝達のプロセスでは麻薬や覚醒剤、毒物といった化学物質、そして薬剤から大きな影響を受けます。

1994年から95年にかけて松本市と東京の地下鉄で起きた有名な事件で使用されたのは神経毒の一種でした。

その神経毒はニューロンから次のニューロンへ の伝達部分の働きを阻害するものでした。

それでは薬剤(医薬品)が脳に及ぼす作用とはどういったものでしょうか。

医薬品とは、要するに体内のタンパク質の働きの異常を修理するものということができます。

もし体内で特定のタンパク質が少なかったり、あっても働きが弱い場合には、その働きを補ってやります。逆にタンパク質が過剰に働いていれば、それを抑えて やれば良いわけです。しかしタンパク質そのものは、飲み薬として飲んだとすると消化器で分解されてしまい、注射しても血液中の酵素で分解されてしまうこと が多く、効果を発揮できないからです。そこで80年代後半から、タンパク質そのものを医薬品にするのではなく、それに作用する伝達物質に注目されるように なりました。

伝達物質はニューロンで生成されたのち、シナプス間に放出され、次のニューロンの膜にあるレセプター(受容体)に結合します。要はここの部分に対して作用 する物質を投与すればいいということで、多くの医薬品の成分は小型物質であり、レセプターや酵素などのタンパク質に作用します。実際の世の中の医薬品は、 このような低分子医薬といわれるものが90%以上を占めています。

また他に例を挙げると、アルコールやニコチンが精神状態に大きく影響を与えるのは、それらが油に溶け易く、血液中からニューロンに入り込み易い性質をもっ ているためです。多量のアルコールを長期間摂取し続けると、ニューロンの死によるアルコール性痴呆症に至ることもあります。

脳に関する疾患について