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免疫防衛軍のエリート

(前ページ続き) その旗をみるや、免疫細胞のエリート軍団(※4)であるT細胞、詳しく言うと作戦参謀役の「ヘルパーT細胞」のうち、その「悪いやつら」に対してもっとも造詣が深い(※5)ヘルパーT細胞がそのマクロファージと結びつき(※5)、ある作戦指令書(=サイトカインと総称される情報伝達たんぱく質。有名なものでインターフェロン‐ガンマがある(※6))をT細胞やB細胞や他のマクロファージに伝達します。

この作戦指令(伝達物質)を受けてはじめて、免疫防衛軍最強の軍団であるキラーT細胞が動きだし、他でサボっている(とは限らないでしょうが・・・)マクロファージが寄ってくるのです。逆にこのヘルパーT細胞の指令が無ければ動けないのは、縦の命令系統がはっきりとしている私たちの世界の軍隊に非常によく似ています。  こんな流れがあって初めてキラーT細胞は動き出し、悪さをする連中に対して結びつき、彼らの武器で攻撃します。同時にヘルパーT細胞による命令を受けたB細胞のうち「悪さをする連中」に対し、最も効果 的な武器を生産するB細胞(=抗体を持つB細胞)が選び出され(正しくはもう既に敵にくっついている状態ですが)は、作戦指令を受けて「抗体(※7)」という武器(ミサイルのようなもの)をせっせと生産し出します。 また、その選出されたB細胞自身もたった1人では何もできないことを良く解っていて、すぐに分裂をはじめ、武器(抗体)の大量 生産を急ぎます。逆に、作戦指令が無くとも敵の種類によって自ら抗体を生産する場合もあります。

 このような過程でできた抗体という武器は、前述のB細胞より発射され悪さをする連中にくっつきます。そしてその抗体には「補体(※7)」という爆薬が仕掛けられていて、導火線の様に様々な反応を繰り返し最終的に相手の細胞膜を破壊し、死滅させます。 こんな動きを繰り返しながら、免疫防衛軍の間では様々な作戦指令(情報伝達物質(※6))が取り交わされ、免疫防衛軍全体の動きをどんどん活性化し、攻撃を進化させていきます。

 しかし、この中で1つ冷静な免疫細胞がいます。「サプレッサーT細胞」がそれですが、免疫防衛軍の攻撃のやり過ぎ(抗体の生産状況)を常に監視し、防衛軍全体の動きを抑制します(抑制しないといわゆるアレルギー反応を起こすからです)。あまり攻撃しすぎると自分の陣地(からだの中の正常な細胞のことです)までだめにしてしまうためです。

 また、初期防衛で好中球やマクロファージの動きと同時並行して細胞やNK細胞が必死に戦っているのも見逃してはいけません。かれら「遊撃軍」は、T細胞が重い腰を上げるまでもちこたえようと戦いますが、最近の研究によるとT細胞が活性化してくるとその動きは鈍くなるようです(この状況下ではT細胞主力軍の援軍的な役割を果 たしていると言われています)。しかし特にNK細胞は、常に体内をパトロールし異物の存在がないかどうか監視し、必要とあらば攻撃を加えているのです。

以上が、私たちのからだの中で日夜繰り広げられている細胞戦争の概要です。細部はもっと複雑な動きをしていて、とても上記のようなストーリーに収まらないことがたくさんあります。上記の細胞戦争は免疫反応の一側面 と言うことは頭に入れておいていただければ幸いです。

【細胞戦争・注釈】

※1 様々な防御網

いわゆる「局所免疫」のことを言います。私たちのからだは様々な細菌・ウィルスから身を守るためからだのあちこちの器官で初期防衛を行っています。具体的には皮膚や粘膜(鼻・くち・のど・気管支・腸管・膀胱・尿道など)で行う免疫のメカニズムです。

※2 好中球とマクロファージ

異物侵入時に初期防衛、つまり「食作用」を行います。悪さを働く連中にやられた細胞を貪食したり、「敵来襲!」の信号(サイトカイン)を送ったりします。また、初期防衛にあたるものとして「以前製造した武器(抗体)」が使用される場合もあります。この場合、抗体の中にある爆薬(補体)が様々な仕掛けで作用し好中球やマクロファージを呼び寄せます。

※3 旗

免疫学的に言えばマクロファージがもつ「クラス・の主要組織適合抗原」のことを言います。マクロファージは「俺はあんた(結合するT細胞)と同じ細胞だ」というような仲間の目印(組織適合抗原)をいつも自分の外に持っているのですが、ひとたび敵を捕食すると「俺は敵を倒しているぞ」と自慢したいのか、自分のからだの外に敵の首(細菌の断片)を提示しT細胞へアピールします。この「首」なり「旗」なり色々と表現の仕方はありますが、このアピールの目印が「クラス・の主要組織適合抗原」と言い、ヘルパーT細胞は常にそれを見ているのです(と言っても目はないですが・・)。ちなみに「抗原」とは「抗体(武器ですね)の結合する相手」「からだの中に入ってきてその異物に対する抗体が作られるもとになったもの」を言います。解りやすく言えば「敵の目印」でしょうか。ちなみに「抗原」とは「抗体(武器ですね)の結合する相手」「からだの中に入ってきてその異物に対する抗体が作られるもとになったもの」を言います。解りやすく言えば「敵の目印」でしょうか。

※4 エリート軍団

大半のT細胞は、骨髄で生まれてから未熟なうちに心臓前部にある胸腺と言う組織(防衛学校)で教育を受けます。ここでは非常にたくさんの未熟なT細胞がひしめき合っていますが、そこから卒業し、からだの中に配備されるのは全体の僅か5%以下と言われています。5%しか卒業出来ない学校とはかなり難関なのでしょうが、卒業出来なければ「死滅」という結果 が待っているので、かれらも必死でし ょう。しかも教えられることは「自己」「非自己」についてというたった2つのことなんですから(このことが重要なのですが・・)。 ここで出てきた「自己」とは免疫学的に言えば「自分ではない奴ではない奴」と表現できます。また「非自己」とは「自分ではない奴」と表現できます。実はT細胞が厳密に敵を認識できるのはこの「自己」「非自己」の見分け方を学んでいるからなのです。以上が、T細胞が「エリート」と呼ばれる所以です。

※5 造詣が深い

つまり「敵の目印(抗原」を見分けられそれに結合できる能力(抗原レセプター)を持っているということです。結合して始めてヘルパ ーT細胞は作戦指令を出すことができるのです。

※6 サイトカイン・伝達物質

かつて「リンフォカイン(主として免疫の制御を行いリンパ球によ って産生される抗体以外の活性物質)」「モノカイン(単球の産生する活性物質)」「インターロイキン(白血球間の情報伝達に関与する活性物質)」と呼ばれていたものがサイトカインとして総称されるようになりました。文中に述べました通 りインターフェロン‐ガンマや、インターロイキン(たくさん種類があります)といった物質がこれに含まれます。 ちなみにインターフェロン‐ガンマ(ヘルパーT細胞より放出)はマクロファージの食作用を増強し、加えて免疫細胞の抗原認識(敵が来たことを認識すること)や攻撃をより効率的なものにする作用を持っています。

※7 抗体と補体

抗体とは、一種のたん白質で、1つの抗体につき1つの「敵の目印(抗原)」としか結びつきません。また理論上ではその種類はおよそ1億種類(!)産生できると言われています。

さて、抗体はたん白質の区分で言えば「グロブリン」に属します。特に免疫の働きを持ったグロブリン(=抗体)のことを「免疫グロブリン」と言います。 免疫グロブリンは大きく5つの種類に分けられます。IgA、IgD、IgE、IgG、IgMです。 もしかしたらこれらの記号を見た方がいらっしゃるかもしれません。Igとは「免疫グロブリン」を意味しその後のアルファベットは免疫グロブリンの種類(クラスと言います)を意味します。

 抗体は時間を追う毎にこのクラスを移動していきます。この移動を「クラススイッチ」と言いますが、抗体の中で主役と言えばIgGです。いわゆる抗体に求められる機能をほとんどこのIgGは持っていて、しかもありがたいことにその寿命は長く(3週間~4週間ほど)なっています。ちなみにアレルギーの原因となる抗体は「IgE」ですので覚えていて損はないかもしれません(一応免疫系の立場にたてば良かれと思ってやっていることなのでしょうが・・いい迷惑です)。

 補体も抗体と同じく単純なたん白質で、9種類のものから成立しています。その反応からよく「導火線を持ったダイナマイトのような爆薬」に例えられますが、抗体によって点火され細菌などを破壊したり、反応途中で他の白血球を呼び寄せたり、マクロファージなどが食べやすいように自ら「取っ手」役になったりと、重要な脇役を演じています。一般 的にこのような補体の(導火線から爆発まで)反応を「補体活性化の古典経路」といいます。

 しかし、なにも爆発しつづけるわけではありません。うまいように出来ていて、例えば補体の連鎖爆発(隣家まで火に油を注ぐ)を防ぐような補体(C3b不活性化因子)もあるようです。補体同士でもうまくバランスを取っているわけです。

 ちなみに多糖類の中には、その連鎖爆発を助ける役割を持っているものもあるようです。こうなると連鎖爆発をはじめ、補体の他の役割でもある「白血球の呼び寄せ」「マクロファージが食べやすくする」も簡単に引き起こすことができ、結果 として抗体が存在しなくとも細菌を処理できるようになると言う処理方法も補体は持っています。このような反応を免疫学では「古典経路」と区別 して「補体活性化の第二経路」と呼んでいます。